「穏やか」が湛える「強靭」
日賀野兼一さんがテンペラ画展

福岡文化連盟会員の日賀野兼一さん=福岡県飯塚市在住=が個展を開いている。福岡市・天神、大丸福岡天神店6階アートギャラリーで21日まで。
日賀野さんは茨城県水戸市の出身。工業デザーナーになりたかったが、美大受験の予備校で最初に石膏デッサンを習った。
 「アグリッパにラボルト。たくさん描きましたねえ」
石膏デッサン不要論がかまびすしい現代の美術界だが、日賀野さんはそこからファイン・アートに心を開かれていった。テンペラ画との出会いは九州産業大学2年のころ。フランス、イタリアを旅し美術館で見たボッチチェリなどの絵に震えるような感動を覚えた。
 「五百年も前の絵が傷みもせず美しい色彩に輝いていました。自分はこれに賭けようと思いました」
 日賀野さんの画面は一般のテンペラのようなツルツルした質感ではない。独自の技法を求めて模索し、キャンバスに白の油絵具で地塗りした上からテンペラで描くという手法をあみ出した。それがザラザラとした砂の上に描いたような質感を与えている。
 光化学スモッグに汚れた東京の空を飛行機から見て「こんな世の中はどうにかしなければならない」と感じた日賀野さんは、黒い煙を吐く工場の煙突を描いて工業社会を批判した。だが反応は厳しかった。
 「こんな汚い絵は見たくないと言われてしまいました」
 発想を逆転させ、未来に残すべきもの、美しいものを描くようになった。今回個展に出品した「桜の華」「ベネチアの光彩」「浜辺からの音色」といった作品群は一見バラバラのようだが「次代に残したいもの」という点で繋がっている。
画家の個性といえば何を描くかが全てであると考えがちだが日賀野さんの場合は違う。深みのある穏やかなマチエルと鮮やかな色彩がそのまま「何を描きたいのか」に重なる。その意味で、淡く儚いように見える画面は実は強靭なのである。穏やかなのに強靭――。形容矛盾のようだが、それがこの画家の個性なのである。(井)